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福岡家庭裁判所 昭和48年(少)267号 決定 1973年5月01日

少年 Z・J(昭三四・二・一二生)

主文

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

理由

少年に対する本件送致事由の要旨は、「少年は昭和四七年八月一一日付を以つて家庭裁判所の審判に付するを相当として児童福祉法二七条一項四号少年法三条に基き福岡家庭裁判所に送致され、同年九月六日付不処分の決定を受けたが、審判後も自己の生活に対して反省がなく非行少年との交友、暴力行為、家出、喫煙等の非行を反覆、○○○中学校番長グループの一員として行動し、昭和四八年一月一〇日番長グループのもつれから○○○中学校生徒に対して暴力行為をはたらき、一層非行化へと発展している状況で、保護者も監護能力が十分でなく、少年の性格および家庭環境等からして、将来犯罪をおかすおそれが多分にある。よつて通算六ヶ月の強制的措置を付して、国立教護院武蔵野学院に収容し、矯正教育を施す必要があるので、本件申請に及ぶ」というにある。

本件記録を精査した結果、ならびに家庭裁判所調査官の調査結果によれば、概ね上記送致事実を認めることができる。当裁判所は昭和四八年二月二八日本件に関し審判を開き、少年の陳述、保護者の意見を聞いた結果少年のこれまでの非行化への原因をなしているものの一つに、少年の父親が仕事の都合で、家を離れることが多く父子間の交流に欠け、少年の情緒面に不安定をきたしていることが考えられるので、父親の勤務先である○○に一家あげて居住することによつて、父親との交流を深めるとともに悪友とも手を切ることができ、更生を期することができるものと考え、調査官の試験観察に付し、少年の行動経過を見守ることにした。その後の少年の行動経過は調査官の行動経過報告書ならびに昭和四八年五月一日の審判廷における家庭裁判所調査官、保護者、少年の各陳述によれば、少年ならびに少年の一家は試験観察決定後ほどなくして、父親の勤務先である○○市に移り住み、少年は同市立○中学校に通学し、遅刻、欠席もなく、学業成績も徐徐に向上しつつあり、非行の影は全くなく、明朗そのものである。

保護者の監護指導にも並々ならぬ努力の跡がみられ、以前の少年の面影は全く見られず、このまま推移すると予後は明るいものが期待される。以上の事実を認定することができる。現段階において少年に対し強制措置をとることはその要を全く認めることはできないので、これを許可しないこととして主文のとおり決定する。

なお、児童相談所長の本件送致書には審判に付すべき事由の中に昭和四八年一月一〇日番長グループのもつれから○○○中学校生徒に対し暴力行為をはたらきと記載し、適用条文には児童福祉法二七条一項四号、少年法三条と記載し、本件記録中の司法警察員作成の児童通告書の通告理由として少年が暴力行為等処罰に関する法律違反の事実があつた旨記載してある。以上の事から児童相談所長は少年に触法行為があつたとして家庭裁判所の審判に付することが適当であるとして送致したもののようにも考えられるが、しかし送致書の記載内容を検討してみた結果上記の昭和四八年一月一〇日云々、と少年に暴力行為があつたとして抽象的に記載してあるだけで、日時、場所、行為の内容等具体的な記載がないし、司法警察員作成の児童通告書の通告理由を引用した形跡もない、少年に対し、触法事案について送致があつたものとは認め難い。むしろ強制措置申請の理由づけの内容の一部として受け取らざるを得ない。

(裁判官 兼島方信)

送致書

福岡家庭裁判所御中

昭和四八年二月二日

福岡県中央児童相談所長杉谷巽

下記少年は、審判に付するを相当と認め送致する。(児童福祉法第二七条第一項第四号、少年法第三条、児童福祉法第二七条第二項、少年法第六条第三項)

少年Z・J保護者Z・M

昭和三四年二月一二日生、○○○中学校二年在学続柄母、四四歳、外交員

本籍熊本県○○市○○○××××番地少年に同じ

住居福岡県○○○市○○○○×××番地の×少年に同じ

一、審判に付すべき事由

少年は、昭和四七年八月一一日付児童福祉法第二七条第一項第四号、少年法第三条に基づき福岡家庭裁判所に送致、

昭和四七年九月六日付「不処分」の決定がなされた後も、自己の生活に対して反省がなく非行少年との交友、暴力行為、家出、喫煙等の非行がおさまらず、○○○中学校番長グループの一員として行動をしています。

昭和四八年一月一〇日、番長グループのもつれから○○○中学校生徒に対して暴力行為をはたらき、最近では、少年を中心としての番長グループをつくり一層非行化へと発展している状況でありますから、児童福祉法第二七条第一項第四号、少年法第三条および児童福祉法第二七条第二項、少年法第六条第三項に基づき家庭裁判所送致を適当と認めます。

二、処遇意見

少年は、最近著しく非行化の傾向を強め又保護者も監護能力が不足しており、少年の性格および家庭環境等を総合して判断すれば、将来犯罪をおかすおそれが多分にあります。

よつて、通算六か月の強制的措置を付して、国立教護院武蔵野学院に収容し、相当の期間矯正教育を施す必要があります。

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